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長野地方裁判所 昭和50年(行ウ)1号 判決

長野市篠ノ井御幣川一一五七番地

原告

小林延雄

右訴訟代理人弁護士

富森啓児

武田芳彦

大門嗣二

岩崎功

右訴訟復代理人弁護士

和田清二

同市西後町六〇八番地の二

被告

長野税務署長

宮下辰生

右指定代理人

高須要子

琵琶板義勝

岩本忠

岡田正

岡村俊一

今井優

主文

一  被告が昭和四五年六月三〇日付でした原告の昭和四四年分所得税の更正及び過少申告加算税の賦課決定(いずれも裁決により一部取消された後のもの)のうち、所得金額一七八万九、五七三円を超える部分を取消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

1  被告が昭和四五年六月三〇日付でした原告の昭和四四年分所得税の更正(ただし、裁決により一部取消された後のもの。以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(ただし、裁決により一部取消された後のもの、以下「本件決定」といい、本件決定とをあわせて「本件処分」という。)のうち、所得金額が一〇二万円を超える部分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、左官業を営む者であるが、原告の昭和四四年分の所得税についてした確定申告、これに対して被告のした更正及び過少申告加算税の賦課決定、原告のした異議申立て及び審査請求並びにこれらに対する異議決定及び審査裁決の経緯は別表(一)のとおりである。

2  しかしながら、本件処分は、次の理由により違法である。

(一) 原告は、民主商工会(以下「民商」という。)の一つである長野民主商工会(以下「長野民商」という。)の会員であるが、被告は、原告が昭和四三年分申告から納税者の自主申告権を確立するために長野民商の会員と共にいわゆる集団申告をなし、その後も右会員として不当課税に反対する運動に従事していることに対する威嚇と報復のために、本件の処分をしたものであり、本来の行政目的を逸脱したもので違法である。

(二) 原告の昭和四四年分の総所得金額は、別表(二)のとおりである。したがって、本件更正には原告の所得金額を過大に認定した違法があり、本件決定も違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、前記請求の趣旨1項の限度で本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  被告の主張

原告の総所得金額は、次のいずれかであるから、その範囲内でした本件処分は適法である。

1  主位的主張

(一) 原告の昭和四四年分の所得金額とその算定の内訳は、別表(三)のとおりである。

(二) 右表の〈1〉収入金額の内訳は、別表(四)のとおりである。

(三) 右表の〈2〉算出所得金額(収入金額から特別経費を除外した必要経費を控除した後の金額)は、右収入金額に同業者の算出所得率(算出所得金額を収入金額で除した数値)の平均値(以下「同業者算出所得率」という。)を乗じて算定する方法で推計した。(収入金額一、二九九万九、六七二円に同業者算出所得率〇・五一四八を乗じた六六九万二、二三一円)

(1) 推計の必要性

被告は、原告の昭和四四年分所得税の確定申告書の内容を調査したところ、右確定申告書には事業所得金額の計算に必要な収入金額及び必要経費が何ら記載されておらず、単に所得金額だけが記載されていて所得金額の計算内容が不明であること及び申告所得金額が同規模の同業者と比較して過少であると認められたので、昭和四五年六月一二日に被告の所部職員を原告方に赴かせ、事業に関する帳簿書類の提示を求めたにもかかわらず、原告はこれに応じなかった。

そこで、被告は、やむをえず原告の取引先等について反面調査を行い、これにより把握した昭和四四年分の収入金額をもとに原告の係争年分の算出所得金額を推計によって算出した。

なお、現時点でも、実額の把握はできず、推計の必要性がある。

(2) 同業者算出所得率による推計の合理性

(ア) 同業者算出所得率の算定方法

被告は、原告の住所地を所轄する長野税務署管内で原告と同種の事業を営む個人事業者で、かつ次の〈1〉ないし〈4〉のいずれの条件も満たす者二八名を抽出した。

〈1〉 昭和四四年分について、暦年を通じて事業を継続している者で年の中途において開廃、転業等業態に変更のない者

〈2〉 所得税青色申告決算書を提出している申告者であること。

〈3〉 業態が手間請負でない者であること。

〈4〉 被告が更正又は決定処分を行った者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間及び出訴期間を経過していない者並びに当該処分に対して不服申立を行い、現在審理中の者又は訴訟係属中の者でないこと。

そして、右同業者二八名に係る収入金額及び算出所得金額によって別表(五)の(1)の〈3〉算出所得率記載のとおりに算出所得率(以下「基礎係数」という。)を求め、これを同業者の平均算出所得率を算出するための基礎資料とした。次に、右基礎係数の中に異例の数値が含まれている場合にはこれを単純に算術平均してもその平均値は適正な平均値とはいええないので、統計学上一般に認められている方式を用いて異例値を除外してその平均値を求めることとした。その方式は、まず基礎係数の算術平均(別表(五)の(1)の〈4〉)を求め、各基礎係数と算術平均との開差、いわゆる偏差を算出(右表の(1)の〈5〉)し、次にこの偏差を自乗(右表の(1)の〈6〉)したものを算術平均し、その数値を平方に開いて算出所得率の標準偏差(右表の(1)の順号31)を求め、これに統計学上一般に用いられている係数一・五を乗じて限界値(右表の(2)の順号3)を求め、更に基礎係数の算術平均に限界値を加算又は減算することによって適正な平均値を得るのに有効な基礎係数の上限及び下限を求め(右表の(2)の順号5及び6)て、その範囲内にある基礎係数のみに基づいて平均値(右表の(3)の順号4)を計算した。

(イ) 推計の合理性

右推計方法は、原告の住所地(納税地)を所轄する長野税務署管内において青色申告をしていた同業者の全てを抽出し、その収支計算資料に基づき、統計学的方法を用いてその算出所得率の平均値を算出するとの方法(しつ皆調査方式)によったものであるところ、この同業者を抽出する過程については被告の恣意が介入する余地はなく、また基礎資料として抽出すべきものとした同業者は原告と同じく右税務署の管轄区域内において左官業を営む個人事業者であり、かつ帳簿書類により取引を正確に把握することができる青色申告者であって業態が手間請負である者が除外されているから、業種、事業場所及び事業形態(個人営業)の点において原告の業態と類似し、かつ、その申告の正確性について裏付けを有するものといえるから、その抽出基準には合理性がある。更に、被告は、しつ皆的に抽出した同業者の算出所得率より得られる平均算出所得率を推計の基礎としてより一層合理的なものとするために統計学上一般に認められている方法、すなわち標準偏差から限界値を求める方法により真の平均算出所得率を得るのに有効な係数の上限及び下限を求め、その範囲内にある係数のみに基づいて平均算出所得率を計算する方法を導入して異常値を除外したものであるから、その計算はより合理的である。なお、原告と同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異等は、平均値の中に吸収、平均化されるものであるから、特に考慮する必要はない。

以上より、前記平均算出所得率によることには合理性がある。

(四) 別表(三)の〈3〉の(1)給料賃金(以下「給与」という。)の内訳は、別表(六)のとおりである。

(五) 右表の〈3〉の(2)借入金利子割引料は、原告が昭和四四年度中に借入金利子割引料として株式会社長野相互銀行篠ノ井支店に支払った金額である。

(六) 右表の〈3〉の(3)地代は、原告が肩書地において左官業を営んでいた借地面積のうちの事業占用面積に対応する地代(賃料)である。

2  予備的主張

(一) 原告の昭和四四年分の所得金額とその算定の内訳は、別表(七)のとおりである。

(二) 右表の〈1〉収入金額は、後述する〈2〉売上原価、〈3〉一般経費及び〈4〉外注費の合計金額を平均経費率(収入金額に対する売上原価、一般経費及び外注費の合計額の割合)で除して算定する方法で推計した。その計算は次のとおりである。(売上原価三〇七万八、八四〇円、一般経費一六二万二、七五五円及び外注費二六四万六、二七五円の合計を平均経費率〇・四八五二で除した一、五一四万四、〇〇二円)

(1) 推計の必要性

前記1(二)(1)のとおり。

(2) 平均経費率の算定方法

(ア) 平均経費率の算定方法

平均経費率とは収入金額に対する売上原価、一般経費及び外注費の合計額の割合をいうものであるところ、前記同業者の平均算出所得率と相関関係にあるところから、一〇〇パーセントから平均算出所得率五一・四八パーセントを差引いて、四八・五二パーセントと算定した。

(イ) 推計の合理性

前記1(二)(2)(イ)のとおり、右平均算出所得率によることに合理性があるから、右平均経費率によることにも合理性がある。

(三) 別表(七)の〈2〉売上原価は、別表(八)の2の(1)材料仕入合計額である。なお、売上原価は、期首棚卸額に当年中の仕入金額を加算し、これから期末棚卸額を控除することによって算出されるものであるところ、右材料仕入合計額は単に期中に支払った仕入金額をいうものに過ぎなく、期首、期末の棚卸額が明らかでないが、これを同額であると認定して売上原価を算定した。

(四) 右表の〈3〉一般経費の内訳は、別表(八)の2の(2)経費のとおりである。

(五) 右表の〈4〉外注費の内訳は、別表(八)の2の(3)外注費のとおりである。

(六) 右表の〈6〉特別経費は、前記1(四)ないし(六)のとおりである。

四  被告の右主張に対する原告の認否及び反論

(認否)

1(一) 同1(一)のうち、別表(三)の〈3〉の(2)借入金利子割引料及び(3)地代は認め、その余は否認する。原告の昭和四四年分の所得金額とその算定の内訳は、別表(二)のとおりである。

(二) 同1(二)のうち、別表(四)の有限会社田畑工業、有限会社与嘉楼及び株式会社滝沢工務店については認め、その余は否認する。

原告の昭和四四年分の収入金額とその算定の内訳は、別表(二)1のとおりである。

(三) 同1(三)の冒頭部分の主張は争う。

(1) 同1(三)(1)のうち、昭和四五年六月一二日に被告の所部職員が原告方を訪れ、事業に関する帳簿書類の提示を求めたこと及び原告がこれに応じなかったことは認め、その余は否認する。

(2) 同1(三)(2)の主張は争う。

(四) 同1(四)のうち、野村寅男を除いた一〇名の給与額は認め、その余は否認する。原告が支払った昭和四四年分の給与の額とその算定の内訳は、別表(二)3(1)のとおりである。

(五) 同1(五)は認める。

(六) 同1(六)は認める。

2(一) 同2(一)のうち、別表(七)の〈6〉の(2)借入金利子割引料及び(3)地代は認め、その余は否認する。原告の昭和四四年分の所得金額とその算定の内訳は、別表(二)のとおりである。

(二) 同2(二)の主張は争う。同2(二)(1)に対する認否は前記1(三)(1)のとおりである。

(三) 同2(三)は有限会社長崎屋商店を除き、認める。原告の昭和四四年分の材料仕入金額とその算定の内訳は、別表(二)2(1)のとおりである。

(四) 同2(四)のうち、公租公課、消耗品費、福利厚生費及び雑費は否認し、その余は認める。原告の昭和四四年分の一般経費とその算定の内訳は、別表(二)2(2)のとおりである。

(五) 同2(五)は、甲田電気を除き、各外注先に対応する金額は認める。原告の昭和四四年分の外注費とその算定の内訳は、別表(二)2(3)のとおりである。

(六) 同2(六)に対する認否は、前記1(四)ないし(六)のとおりである。

(反論)

1 推計の必要性に関して

(一) 原告の昭和四四年分の収入金額も算出所得金額も実額によって算出できる。その明細は別表(二)のとおりである。このように収入金額や算出所得金額が実額によって算出される以上推計の必要性がない。

(二) 推計課税の適法要件のうちの手続要件である、実額によることができない場合とは、納税者が適法な調査に合理的な理由もなく協力しない場合のことをいうものである。

原告に対する調査は、民商弾圧の意図の下に原告に対する報復措置としてなされ、事前通知のない抜打ちのものであり、調査の理由や内容についても明らかにせず、ただ帳簿等の資料を見せるよう迫るだけのものであり、違法である。

原告は、調査に合理的な理由がありそれが開示された場合には何時でも帳簿等の資料を提供する意思と準備があったのであり、合理的な理由もなく資料提供を拒否する等の非協力的態度をとったものではない。

したがって、本件は推計課税の適法性の要件に欠けるものといわざるをえない。

2 推計の合理性に関して

まず、推計の合理性を担保するためには所得形成の個別性に対する配慮がなされているか否かが重要な要因であり、選定対象が業績、規模等に適切に区分されているかが重要であると考えられる。ところが、被告の抽出した同業者の基準は単に同業者であるというのみであり、その規模は全く考慮外にある。更に、業績を売上金額でみた場合、最高一、三〇〇万円台から最低一九〇万円台に及び、しかも、一般的傾向として売上金額が少ない程算出所得率が高い。これらをすべて算術平均し、平均値を求めたところで、その平均値が原告に対する推計の合理性を有することにはならない。この方法は、売上金額の多い納税者の場合、実額よりも推計による額の方が多い結果となる。このことは売上金額一、三〇〇万円台の別表(五)の(1)の順号1、2の業者の実額の算出所得率が四四・二二パーセント、三八・七四パーセントであるのに被告が採用した方法では右所得率が五一・四八パーセントになることからも明らかである。したがって、原告の場合、売上金額は右の順号1の業者より少ないにもかかわらず、算出所得金額ははるかに多くなるという不合理な結果になる。すなわち、原告については、その主張のように、売上金額一、三七七万二四九円に対し、算出所得金額は六四四万八、六八八円であるから算出所得率は四六・八三パーセントであり、これはむしろ右順号1の業者と近似している。右の事実を意図的に度外視して前述のような平均値を求めることは推計の合理性を全く失ってしまうことになるのである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし六八、第二号証の一ないし四二〇、第三号証の一ないし四六、第四号証の一ないし四、第五ないし第一八号証

2  証人岡沢郁夫及び原告本人(第一、二回)

3  乙第三、第五、第一二号証の成立は認める(第一二号証は原本の存在も認める)。その余の乙号各証の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし一〇、第二ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八、第九号証の各一ないし四、第一〇号証の一、二、第一一、第一二号証(第一二号証は写)。

2  証人河西恒良、同雨宮甲子男、同田中信夫及び同北沢福一

3  甲第六ないし第一〇号証の成立は認める。その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  本件課税処分の経緯等

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、右争いがない事実と、証人岡沢郁夫の証言によって成立の認められる甲第五号証、同証言及び証人河西恒良の証言並びに原告本人尋問の結果(第一回、ただし一部)に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  長野民商は、昭和三五年ごろ、長野県内の中小商工業者が自らの営業と権利を守ることを標榜して組織した民間団体であり、原告は昭和四三年に入会した。

(二)  原告は、左官業を営む者であり、昭和四四年三月一三日ごろ、原告の昭和四三年分の所得税につき長野民商の他の会員らと共に白色申告書によって確定申告した。被告は、所部職員である小林義男、同山口広男(以下「小林係員、山口係員」という。)に対し、原告の昭和四一年ないし四三年分の所得税に関し税務調査を命じた。小林係員と山口係員は、昭和四四年六月ごろ原告方に臨場のうえ口頭で、あるいは文書により原告に税務調査に対する協力を求めたが、原告はこれに応じようとしなかった。更に、被告から右税務調査を命じられた所部職員である河西恒良(以下「河西係員」という。)は、同年九月から一〇月にかけて原告に対し、原告方に臨場のうえ口頭で、あるいは文書により税務調査に対する協力を求めたが、同じく原告はこれに応じなかった。そこで、被告は、同年一二月二五日ごろ、原告の昭和四一年ないし四三年分の所得税につき更正処分を行った。

(三)  原告は、昭和四五年三月一五日、昭和四四年分の所得税につき白色申告書によって確定申告をした。被告は、右確定申告書には所得金額のみが記載されていて、収入金額、必要経費の記載がないこと及び同業者と比較して所得が過少ではないかとの疑いが持たれたことから、河西係員に対し、原告の右年分の所得税に関し税務調査を命じた。

(四)  河西係員は、同年六月一二日、原告の所得税調査のため、事前の連絡なしに原告方に臨場し、原告に対し、身分証明書を呈示のうえ、用向きは所得税の調査であることを告げ、特に調査の具体的な必要性、理由は開示せずに帳簿書類の提示を求めたが、原告は、「申告ずみであり、強制調査でない限り応じられない。調査の内容や理由がはっきりしない限り応じられない。」などと申し出て、右の求めに応じなかった。河西係員は、更に原告に対し、調査に協力して帳簿書類を提示するよう促したが、原告に翻意する気配がみられなかったので、説得を断念し、原告方を辞した。

(五)  被告は、昭和四四年にも原告が原告の昭和四一年ないし四三年分の所得税の調査に協力しなかったことから、原告の協力を得て収入金額、必要経費等の実額を認定することは不可能であると判断し、原告の取引先について反面調査を行い、これによって把握した収入金額等をもとにして原告の事業所得金額を推計により算定した。

(六)  そして、被告は、その後、本件処分を行い、審査請求に対して国税不服審判所長は請求原因一1の裁決を行った。

以上の事実が認められる。

原告本人尋問の結果(第一回)中の右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  本件処分の取消請求について

1  手続的違法事由(請求原因2(一))について

原告は、被告が原告の長野民商会員として活動していることに対する威嚇と報復のために原告につき所得税調査をし、本件処分をした旨主張するが、前記認定事実によると、原告は昭和四三年に長野民商に入会し、昭和四四年三月一三日ごろ、原告の昭和四三年分の所得税につき長野民商の他の会員らと共に確定申告をしたところ、昭和四一年分にまでさかのぼって所得税に関する税務調査がされて更正処分がなされ、更に原告の本件係争年分の所得税に関しても税務調査がされて本件処分がなされたという経過は明らかであるが、右事実のみから原告が主張するような威嚇、報復の意図を推認することはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

2  原告の昭和四四年分の総所得金額について

(一)  原告の本件係争年分の総所得金額の算出について、被告は、主位的主張では算出所得金額の算定につき、予備的主張では収入金額の算定につき、いずれも推計課税を主張するのに対し、原告は実額による算定が可能であると主張している。

ところで、推計課税も実額課税もともに課税標準を認定するための方法の差異にすぎず、推計課税は実額課税ができない場合にやむをえず用いられる課税方法(補充的課税方法)であるから、実額認定が可能な場合には、まずこれによって課税標準を認定するのが相当である。そこで、原告の実額の主張について検討する。

原告は、本件係争年分の事業所得金額が別表(二)4のとおり一六一万六、三七九円であると主張するので、まず右表の1収入金額の当否について検討する。

原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一号証の二六、第三号証の二五、三三、四六、同尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第一一、第一三、第一八号証、証人北沢福一の証言により成立の認められる乙第六号証の一、二、第七号証、第八、第九号証の各一ないし四、第一〇号証の一、二、同証言及び同尋問の結果(第一、第二回の一部)に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

原告は、本件係争年分の収入金額につき、初め売上帳(甲第一一号証)をもとにして別表(八)の1収入金額一、三二一万七、八〇五円を主張していたが、その後別表(二)の1収入金額一、三七七万二四九円に訂正した。

右訂正の大半は右売上帳に記載があるものについての、計算違い、計上年度の誤り、計上漏れに基づくものであるが、北村文男(一四万三、〇〇〇円)及び有限会社宮尾工務店(三〇万円)については右売上帳に記載がなく、被告の調査による指摘によってはじめて改められたものである。

また、右売上帳に記載がなく、別表(二)の1収入金額に掲げられていないもので、原告の本件係争年度の収入金額に計上されるべきものとして少なくとも高橋建材店左官工事(一万八、〇〇〇円)及び日極建築左官工事(七万円)が存在する。

以上の事実が認められる。

右認定に反する原告本人尋問の結果(第一、第二回)の一部及び同尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第一四、第一五号証は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によると、別表(二)の1収入金額をもって、原告の本件係争年分の収入金額(実額)とすることはできないから、原告の実額課税の主張はその余の点につき判断するまでもなく、採用できない。

なお、右認定のとおり、売上帳(甲第一一号証)に記入漏れがあることが明らかであるが、他にこれを補充して原告の本件係争年分の収入金額をすべて明らかにする直接的資料も認められない。

(二)  そこで、被告主張の推計課税による総所得金額について判断する。

(主位的主張について)

(1) 収入金額

別表(四)の収入金額のうち、宮入建設株式会社、有限会社田畑工業、有限会社与嘉楼及び株式会社滝沢工務店についてはいずれも当事者間に争いがなく、笠井工業株式会社、株式会社柳原工務店及び川柳建設株式会社については、被告主張の金額が実額を下廻るものであることは、原告の争わないところである。

そうすると、収入金額は、少なくとも被告主張の一、二九九万九、六七二円であると認められる。

(2) 算出所得金額

(ア) 推計の必要性について

前記一の認定事実によると、被告が本件各処分をする際、原告に対して帳簿書類の提示を求めたが拒絶され、反面調査をしたが、結局実額を把握することができなかったのであるから、推計課税の必要性がある場合に該当すると認められる。

これに対して、まず、原告は、現時点においても別表(二)のとおり、実額によって算出できるから推計の必要性がないとの趣旨の主張をするけれども、現時点において収入金額について実額が判明しないことは既に認定したとおりであるから、原告が一般経費について実額の主張をしても被告主張の右収入金額に対応する部分が明らかにされない限り、結局算出所得金額についても実額が判明しないものといわざるをえない。

次に、原告は、推計課税の適法要件である、実額によることができない場合とは、納税者が適法な調査に合理的な理由もなく協力しない場合のことをいうところ、本件は、第一に、原告に対する調査が民商弾圧の意図の下に原告の民商会員として活動していることへの報復措置としてなされ、事前通知のない抜打ちのものであり、調査の理由や内容についても明らかにされなかった点で適法な調査とはいえず、第二に原告は調査に合理的理由がありそれが開示された場合には調査に協力する意思と準備があったのであり、合理的な理由もなく調査に協力しなかったわけではないから、推計課税の適法性の要件に欠ける旨主張する。

しかしながら、所得税調査のための質問検査の範囲、程度、時期、場所等実施の細目については実定法上特段の定めはなく、これらは質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきであって、たとえ税務調査の日時、場所を被調査者に対し事前に通知せず、あるいは調査の個別的具体的な必要性、理由を開示しなかったとしても、それらが質問検査を行ううえでの法律上一律の要件とされているものではないから、社会通念上相当な範囲において実施された場合には、適法な税務調査といわなければならない。これを本件についてみるに、前述したように、原告に対する調査が民商弾圧の意図の下に報復措置としてなされたと認めるに足りる証拠はなく、前記一(三)及び(四)に認定した本件調査の端緒及び経過からすれば、被告のした税務調査が社会通念上相当な範囲を逸脱した違法な調査であったとはいいがたい。また、調査の個別的具体的な必要性、理由の開示が税務調査の要件とされていない以上、調査の合理的理由の開示のないことを理由に調査を拒絶した場合であっても、税務調査に協力的でない場合に該当するといわざるをえない。よって、原告の主張は理由がない。

(イ) 同業者算出所得率による推計の合理性

証人田中信夫の証言により成立の認められる乙第三ないし第五号証及び同証言に弁論の全趣旨を総合すると、関東信越国税局長は、本件訴訟の資料に供する目的で、昭和五五年九月一七日付通達により被告に対し、長野税務署管内において左官工事業を営む個人の青色申告者で、(1)昭和四四年分について暦年を通じて事業を継続している者で、年の中途において開廃、転業等業態の変更のない者、(2)所得税青色申告決算書を提出している申告者であること、(3)業態が手間請負でない者であること、(4)上記(1)ないし(3)に該当するもので、税務署長が更正又は決定処分を行った者のうち、国税通則法の規定に基づく不服申立期間及び出訴期間を経過していない者並びに当該処分に対して不服申立てを行い、現在審理中の者又は訴訟係属中の者でないことのいずれにも該当する者の全部について、売上金額、売上原価、一般経費等の調査報告を求めたこと、右通達にしたがって被告が調査したところ、右通達の要件を充足する業者は全部で二八名であったので、その全員につき氏名記号、収入金額、売上原価、差益金額、一般経費、算出所得金額及び算出所得率を記載した同年九月二九日付報告書を作成のうえ関東信越国税局長に提出したこと、右別表(五)(1)の順号、氏名、売上金額、算出所得金額及び算出所得率は前記報告書の該当欄(氏名は報告書の氏名記号)を転記したものであること、そして、被告は、次の方法により平均算出所得率を算出したこと、すなわち、右資料の基礎係数の中から異例値を除外するためにまず基礎係数の算術平均(右表の(1)の〈4〉を求め、各基礎係数と算術平均との開差、いわゆる偏差を算出(右表の(1)の〈5〉)し、次にこの偏差を自乗(右表の(1)の〈6〉)したものを算術平均し、その数値を平方に開いて算出所得率の標準偏差(右表の(1)の順号31)を求め、これに統計学上一般に用いられている係数一・五を乗じて限界値(右表の(2)の順号3)を求め、更に基礎係数の算術平均を得るのに有効な基礎係数の上限及び下限を求め(右表の(2)の順号5、6)て、その範囲内にある基礎係数二五に基づいて平均値(平均算出所得率)を計算した(右表の(3))こと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

そこで、右平均算出所得率によることの合理性につき考察するに、右の平均算出所得率の算出は、同業者の抽出基準の合理性及び抽出方法の無作為性が一応担保されており、更に統計学的方法により異例値を除外するための操作がなされていることからいって、抽象的にみるかぎり、右所得率を原告に適用することが合理的であるようにみえる。しかしながら、右算定の基礎とされた数値を二八名につき個別具体的に検討すれば、収入金額について最高が一、三八〇万七、〇〇〇円、最低が一九二万三五〇円で両者の間に約七・二倍もの開きがあり、算出所得率についても最高は六七・七六パーセント、最低は三三・一四パーセントと著しく相違しているし、また原告の収入金額に相対的に近い、収入金額の多い者上位一〇名(別表(五)の(1)の順号1ないし10)の算出所得率の算出平均が四五・一二パーセントで、全算出所得率の算術平均及び前記平均算出所得率のいずれよりも低いのに対し、その他の者一八名(別表(五)の(1)の順号11ないし28)の算出所得率の算術平均が五三・九〇パーセントと、右算術平均及び平均算出所得率のいずれよりも高くなることからすると、右二八名全員の数値を基礎資料として算出された平均算出所得率は、営業規模、業態等からくる個別的特性を包摂、平均化しつくしていないのではないか、との強い疑いを拭い切れない。したがって、被告主張の平均算出所得率をそのまま原告に適用することの合理性を認めがたいといわざるをえない。そこで、右二八名のうち原告の営業規模と類似する同業者として収入金額が原告(一応被告主張の一、二九九万九、六七二円を基準とする)の五〇パーセント以上の者一一名(別表(五)の(1)の順号1ないし11)を選定し、これらの者の算出所得率の算術平均を求め、この数値から原告の算出所得金額を推計する方法によることとすれば、営業規模において原告との類似性がより強く、その算出所得率においても最高が五四・八五パーセント、最低が三三・一四パーセントで収入金額と共にばらつきが少なく、対比資料として相当な範囲内のものということができ、また、その算出所得率の算術平均四五・八八パーセントが原告の収入金額に近い別表(五)の(1)の氏名イ、ロの算出所得率と対比してみてあながち不相当ともいえないから、合理性を肯定しうる。

右の方法による原告の本件係争年分の算出所得金額の推計値は収入金額一、二九九万九、六七二円に〇・四五八八を乗じた五九六万四、二四九円となる。

(3) 特別経費

(ア) 給料賃金について

野村寅男を除く一〇名の従業員の本件係争年分の給与額が別表(六)のとおりであることは、当事者間に争いがない。

本件係争年分の給与につき、被告は、野村の給与額は六四万二、九五〇円で、右一一名の他に従業員は存在しない旨主張するのに対し、原告は、別表(二)の3(1)のとおり、野村に対する給与の額を争うとともに、前記争いのない一一名の他に西村徳正ほか二名を雇傭し、それぞれに対し給与を支払ったと主張するので以下検討する。

証人雨宮甲子男の証言により成立の認められる乙第二号証及び同証言によると、次の事実が認められる。

被告は、原告の取引銀行である株式会社長野相互銀行篠ノ井支店を反面調査した結果、原告が本件係争年当時同銀行と、別表(六)の一一名の従業員を被保険者とする、ひまわり交通安全定期預金契約を締結していたことが判明した。そこで、被告は、右一一名について、公共職業安定所において原告作成に係る離職証明書に記載されている本件係争年分の給与額と、各住所地の役場において住民税の申告書に添付されている原告作成に係る給与支払証明書の給与額を調査し、なお、両者の額が異なる場合は高額のものを採用することとした。右の調査結果が別表(六)である。

以上の事実が認められる。

右事実によると、野村の給与額は六四万二、九五〇円であったと認められ、また、原告は、別表(六)の一一名以外に従業員を雇傭していなかったものと推認できる。

右認定に反する原告本人尋問の結果(第一、第二回)及び同尋問の結果により成立の認められる甲第四号証の一ないし四は右認定事実に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上によれば、原告が本件係争年分の給与として支払った額は合計四三五万三八〇円となる。

(イ) 借入金利子割引料が七万五、九八六円であることは、当事者間に争いがない。

(ウ) 地代が五、五七三円であることは、当事者間に争いがない。

以上の事実によれば、原告の本件係争年分の事業所得金額は算出所得金額五九六万四、二四九円から特別経費四四三万一、九三九円を差引いた一五三万二、三一〇円となる。

(予備的主張について)

(1) 被告の予備的主張は、収入金額を、売上原価、一般経費及び外注費の合計金額を平均経費率で除して算定する方法によって推計したものであるから、まず売上原価、一般経費及び外注費について判断する。

(ア) 売上原価について

原告の本件係争年分の材料仕入額については、別表(ハ)の2の(1)材料仕入のうち、有限会社長崎屋商店分を除き、当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一号証の一五ないし二五、二七、二八及び同尋問の結果によると、同店からの仕入額は八五万五、三四〇円と認められる。

なお、甲第一号証の二六は、右甲第一号証の一五ないし二五、二七、二八と同じく、右有限会社長崎屋商店が昭和四四年四月一六日付で原告に対して発行した二万五〇〇円の領収証であるが、右領収証には「但、モトヤのタイル工事分」と記載されており前記乙第六号証の二によれば、有限会社長崎屋商店の代表取締役長崎睦男は、昭和五七年八月一二日、国税局訟務官北沢福一他一名に対し、右領収証の意味について、原告が合名会社モトヤ運動具店から請負ったタイル工事を、更に有限会社長崎屋商店が原告から下請負した代金の領収を証するものであると供述したことが認められ、原告(第一回)も概ね右事実関係を認めているので、右領収証は、原告の材料仕入額に含まれるとは認めがたい。

他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうすると、原告の本件係争年分の材料仕入額は合計三〇五万八、三四〇円となる。

そして、右年度の期首、期末の棚卸額が明らかでないので、これを同額とするのが相当であるから、売上原価は三〇五万八、三四〇円と認められる。

(イ) 一般経費について

一般経費については、別表(八)の2の(2)経費のうち、公租公課、消耗品費、福利厚生費及び雑費を除き、当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第二号証の一ないし三〇及び同尋問の結果によると、公租公課の額は四万三、八一〇円であると認められ、同尋問の結果により成立の認められる甲第二号証の一五五ないし二一六、第三号証の四五及び同尋問の結果によると、消耗品費は三七万一、一六三円であると認められ、同尋問の結果により成立の認められる甲第二号証の二一九ないし二四七及び同尋問の結果によると、福利厚生費は二六万七、六六〇円であると認められ、同尋問の結果により成立の認められる甲第二号証の二四八ないし四二〇及び同尋問の結果によると、雑費は二二万二、一四五円であると認められる。

そうすると、一般経費は合計一六三万七、六二〇円となる。

(ウ) 外注費について

被告が別表(八)の2の(3)に主張する外注費については、甲田電気分を除き、当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第三号証の四五及び同尋問の結果によると、甲田電気に支払われた三、三四五円は外注費ではなく一般経費であることが認められる。

そうすると外注費は合計二六四万二、九三〇円となる。

(2) 推計の必要性については、主位的請求についての(2)(ア)に判示のとおりである。

そして、同(イ)に判示のとおり、算出所得率を四五・八八パーセントとするのが合理的と考えられるのであるから、それと相関関係にある平均経費率は一〇〇パーセントから右四五・八八パーセントを差引いた五四・一二パーセントとすべきものである。

そこで、前記(1)の(ア)(イ)(ウ)として認定した売上原価、一般経費及び外注費及び外注費の合算額七三三万八、八九〇円を〇・五四一二で除した一、三五六万四〇二円が原告の本件係争年分の収入金額となり、この金額から右の売上原価、一般経費及び外注費の合算額七三三万八、八九〇円を控除して得られる額六二二万一、五一二円が原告の本件係争年分の算出所得金額の推計額と認められる。

(3) 主位的請求についての(3)に認定のとおり、特別経費は四四三万一、九三九円と認められる。

以上からすれば、原告の本件係争年分の事業所得金額は算出所得金額六二二万一、五一二円から特別経費四四三万一、九三九円を差引いた一七八万九、五七三円となる。

3  そうすると、本件更正のうち、所得金額一七八万九、五七三円を超える部分は、原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件決定のうち、右所得金額を超える部分に対応する部分は違法である。

三  以上によれば、原告の本訴請求は、本件処分のうち、所得金額一七八万九、五七三円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 佐藤道雄 裁判官 岡田信)

(一)

〈省略〉

(二)

1 収入金額

〈省略〉

2 必要経費 7,321,561(円)

(1) 材料仕入

〈省略〉

(2) 経費

〈省略〉

(3) 外注費

〈省略〉

3 特別経費 4,832,809(円)

(1) 給料賃金

〈省略〉

(2) 借入金利子割引料 75,986(円)

(3) 地代 5,573(円)

4 事業所得金額

13,770,249-7,321,561-4,832,309=1,616,379(円)

(三)

〈省略〉

(四) 収入金額 一二、九九九、六七二円

これの内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

(五)

(1) 基礎係数及び標準偏差の計算

〈省略〉

(2) 限界値の計算

〈省略〉

(3) 平均値の計算

〈省略〉

(六) 給料賃金 四、三五〇、三八〇円

これの内訳は次表のとおりである。

〈省略〉

(七)

〈省略〉

(八)

1 収入金額

〈省略〉

2 必要経費 7,347,870(円)

(1) 材料仕入

〈省略〉

(2) 経費

〈省略〉

(3) 外注費

〈省略〉

3 特別経費 4,832,309(円)

(1) 給料賃金

〈省略〉

(2) 借入金利子割引料 75,986(円)

(3) 地代 5,573(円)

4 事業所得金額

13,227,805-7,347,870-4,832,309=1,037,626(円)

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